博士・ポスドクの『転職体験記』
ポスドクの大学助手、美術の博士号を活かし学芸員に
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- 前職
- 私立大学 美術系学部 専任教員 (助手)
- 現職
- 文化振興財団 新規に開業する現代アート美術館の学芸員
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- 及川 早織 氏 / 31歳
- 東京藝術大学 美術学部 絵画科 油画専攻 卒
東京藝術大学大学院 美術研究科 絵画専攻 壁画研究分野 博士前期課程 修了
東京藝術大学大学院 美術研究科 美術専攻 油画研究領域 博士後期課程 修了
私はエリートネットワークさんのご支援により、大学の助手から財団への転職を決めることができました。以下、研究者の方々や、転職を考える方々に対して、少しでも何かの足しになればと考え、あえて大学教員の仕事の現状、職位や研究についての細かい話、前職の辛かった点や感情的な面を率直に書くことにしました。想いのままを述べるような拙い文章で恐縮ですが、何かの参考になれば幸いです。
1、転職の理由
私は私立の総合大学の美術系の学部で専任助手をしていました。国立の大学院博士課程で博士号を取得した直後、公募ではなかなかの高倍率の中、この「助手」というポジションを獲得しました。現在の大学教員の状況をご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、今の時代、「助手」になることすら難しいとされているのです。
面接を受けた際は「助教相当」という話で、授業も持てるということで喜んで着任しました。しかし内実は異なり、大変戸惑いました。まず、話と違って授業を持てず、仕事内容は「経費の管理」「領収書処理」「備品の発注」「時間割編集」といった、完全に事務方がやるような仕事を助手が担っているという状態でした。
このような中、専任・非常勤含め40人ほどいらっしゃる教員に対して、助手が1人しか配置されていなかったことも、私に追い討ちをかけました。先生方や職員さんたちの急な頼みごとなどに加え、時には罵倒・中傷されることもあり、精神的に追い詰められることも多々ありました。帰宅が深夜になることや、早朝・深夜や休日に電話が掛かってくることもしょっちゅうでした。
それでも1年目は、高倍率の中選んでくださったのだから……これもきっと糧になるはず……、と自分に言い聞かせて頑張ってきました。
しかし、とある助教の先生が途中で就任してこられ、この方と自分をどうしても比べてしまったのです。
――国立大学で博士号を何とか苦労して取得したのに、なぜ自分だけ毎日雑用をやっているのだろう?――と。
その先生は私とは別口の私募で来られた方で、ほぼ同い年なのに授業を持っていました。学術論文を書かれたこともなく、学歴で比較するのは良くないですが、自分よりも学歴的には高くない方だったのです。
そういう状況の中、ある職員さんに「2年目の任期更新の時に、助教に上げてもらうよう交渉してみたら」とアドバイスをいただいていたので、更新が来るまで頑張ろう、というこの一心で、何とか自分なりに研究実績を積みながら日々の業務をこなしていました。
そして、就任から2年が経とうとして更新の話が来た時に、思い切って職位の相談を上長の先生にしてみました。
しかし結果は、この2年で査読付き論文を3本書いたにもかかわらず、検討もしないうちに「うちの学部ではあなたを助教に上げる予定はありません」との回答でした。それも、5年の任期(2年ののち更新して+3年)の後にも、そういう想定がないというニュアンスの回答だったのです。助手は仕組み上「職員」に近いので、教員に上げられないとの説明でした。雑用にも耐えて頑張ってきましたが、自分の中で何かが切れてしまった瞬間でした。
仮に更新をして5年の任期をやり遂げたとしても、その先に今の大学で上にあがっていけないという事実を突きつけられたことは、大きな契機となりました(他の大学の公募にも応募し続けていましたが、面接まで行っても決まることはありませんでした。もちろん、自分の力不足もあったのですが、前述のように今のご時世、大学の教員は本当に狭き門なのです)。
加えて、大学特有の人間関係的な大変さも相まって、もう大学の世界にはいられない! と、思い切って民間企業への転職を考えました。
この決断には上記のようにネガティブな理由もありましたが、大学の意向をはっきりと聞き、ある意味で吹っ切れたことで、結果的に良い方向に導かれることになったのです。
2、手さぐりの転職活動
今まで本格的に転職活動をしたこともなく、あまり相談できる人もいなかったため、ネットの情報を頼りに手さぐりで活動を始めました。私の場合は転職サイトへの登録をしながらも、メインは転職エージェントに頼って行いました。特殊な業種のため、転職サイトですとなかなか良いものにヒットしなかったからです。
しかし、様々な転職エージェントに相談に乗っていただいても、なかなか良い求人には出会えませんでした。
特に私の場合は、一応、大学の専任教員として割と良い年収をいただいておりましたので、著しく年収が落ちてしまうような求人がほとんどでした。何とも欲張りなのですが、年収を維持しながらも、学位を生かして民間企業に転職できる方法はないか? と、探していた時に出会ったのが、エリートネットワークさんでした。
担当してくださった転職カウンセラーの杉本さんは、お電話でのほんの数十分のやりとりで、私が求めているものをすぐに察知してくださり、お電話の後1~2日という短い期間で、驚くほど自分にぴったりの求人をたくさん見つけてくださいました。どの求人も、他のサイトでは経験しなかったような、仕事内容を見るだけでぱっと心が華やぐ、素敵なものばかりでした。
他のサービスでは、何時間にもわたってインタビューをした挙句、何となく冴えない求人しか紹介されなかったというケースや、希望年収をお伝えして、それは難しいと頭から断られてしまった、ということが続いていましたので、杉本さんのご対応には本当にびっくりしてしまいました。それと同時に、「自分にはこんなに可能性があったんだ!」と励みになりました。
転職活動中、大学の仕事も学期末、そして年度末に重なり相当に忙しかったため、せっかく書類が通った企業のSPI試験を受けられなかったりと、杉本さんには大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。しかしそんな時も、求職者を責めるようなことはせず、どんどん前向きに次の求人を紹介してくださいました。他のエージェントさんからは、一度エントリーしたら絶対に辞退するな、といった少々脅迫めいた注意文言がメールで送られて来ることもあったので、違いを感じました。
3、面接、そして内定
そのような中、現職の面接を受けさせていただく運びになりました。1次面接の前に電話できめ細かいアドバイスと、気持ちの部分の整理をしてくださり、安心して当日に臨むことができました。面接では、打ち解けた雰囲気で、緊張せずに話すことができました。さらに面接後には、私の意向を大切にしながら、企業側に的確にフォローしてくださいました。
杉本さんには、内定をいただいた後の年収交渉までも快く引き受けていただき、結果的には非常に良い条件で転職を決めさせていただくことができました。
財団での仕事内容は、新しい文化複合施設の立ち上げに関わらせていただけるというもので、美術の博士号だけではなく、学芸員資格、学生の時にやっていたプロジェクト作りや音響制作、趣味で調べていた経済や建築についてなど、自分のすべてが活かせるようなものでした。
面接中の会話では、「今までのすべての出来事が無駄ではなかったんだ」と思え、全部がパズルのように一つ一つ意味を成して、導かれるような感覚を覚えました。
転職の決定を報告すると、所属していた大学の先生方からは、むしろ羨ましがられるような状況となったのです。
4、おわりに
転職が決まるまでは、「自分の学位には意味がなかったのだろうか?」という絶望的な気持ちにもなりました。しかしエリートネットワークの杉本さんは、学位どころか、私の様々な素養を見抜かれて、現職に導いてくださったのです。このようなエージェントサービスは、他にはほとんどないと思います。
私の場合、前職でプライドがズタズタになるような厳しい職場環境だったからこそ、この転職の道が切り開かれました。辛い思いをしてついつい怒りを向けてしまった先生方にも、今では感謝できるようになりました。
転職の理由にはもっと前向きなものもあると思います。前向きな方が何よりです。しかし、今、現職でどうしても辛いという方、その辛さが次の良い仕事に導いてくれることもあると思います。辛いということは、自分にはもっと価値があるのではないか? もっと良い環境があるのではないか? と、潜在的に自分自身が気付いているサインとも言えるのかもしれません。
すべてに意味があると思います。上記の『転職体験記』をお読みになり、今悩まれている方に、少しでも勇気が湧きましたら、これ以上に嬉しいことはありません。
みなさま本当にありがとうございました。
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