博士・ポスドクの『転職体験記』
ポスドク、アカデミックから飛び出し、電力領域ベンチャーの研究開発職へ
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- 前職
- 旧・帝国大学 任期付き研究員
- 現職
- マザーズ上場 電力領域ベンチャー企業(PPS) 研究開発職
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- 千田 勝史 氏 / 36歳
- 神戸大学 理学部 地球惑星科学科 卒
神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻 博士前期課程 修了
神戸大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻 博士後期課程 単位取得退学
※最終取得学位:博士(理学:気候分野)
ソフトウェア開発技術者
TOEIC 765 点
●なぜ当初アカデミック分野に進もうと思ったか
学部や博士前期課程で取り組んだ、シミュレーション及びデータ解析を行う研究活動は面白く、私の得意分野でもありました。また、混沌とした状況を整理して知見を積み重ねて行く作業に心地良さを感じていました。
そのため、このまま研究者として身を立てようと思い、博士後期課程へ進学しました。
博士前期課程の研究に一区切りがついたことから、博士後期課程に進む際に思い切って大きな分野変更(生物分野から気候分野)を行いました。それにより3年半のロスはありましたが、努力で博士号を獲得し、ポスドク(博士研究員)として研究所や大学で働くようになりました。この職は学生時代の指導教員に紹介頂いたものでしたので、一般的な就職・転職活動の経験はありませんでした。
●民間企業への転職に至った背景や理由
当初の私のキャリアプランは、一般的な研究者のキャリアと同様、不安定な任期付きポスドクを5年ほど経験し、任期が終わるタイミングで、それまでの実績をもとに安定した任期なしの教員(助教や講師など)にスイッチする、というものでした。
しかし30代半ばに差し掛かると、体力の限界を感じるようになりました。この時在籍していた研究室は他所に比べて非常に忙しく、私は1人で2~3人分の業務を担当していたため、土日返上で働くのは日常茶飯事でした。(転職活動を始める前の1年間では2ヶ月に1回は過労で倒れるような有様でした。)この時の私の任期は残り2年でしたが、「もう2年は持たない」と悟り、転職を決断しました。
まずは予定を早めてアカデミックで任期なしポストに就くことを目指しました。しかし、少子化を背景に、業界は全体的に縮小傾向にありました。任期なし教員の定数は削減される一方で、1名の任期なし教員の公募に数十人が殺到することも珍しくありませんでした。書類を送っても面接にさえ進めない日々が続きました。
そこで、アカデミックにこだわることはやめて、民間企業にも活路を広げることにしました。
私の得意なシミュレーション、データ解析を活かせる場所は民間にもあるはずだ、と思いました。一方で、民間企業の視点では35歳は比較的高年齢であること、アカデミックにいた人は「未経験」と見なされること、この2点により、どこからも相手にされないのではないか、という不安はありました。
●エリートネットワークさんを選んだ理由
最初は色々な転職サイトで、自分の専門分野(気候)が活かせそうな「地球温暖化」などのキーワードで検索していました。すると、自分に打って付けだと思われる求人が2件見つかりました。
最初はこの2件に直接応募することを考えましたが、知人に相談したところ、転職エージェントを利用することを薦められました。そのほうが応募や面接の日程調整の手間も掛からないうえ、加えてプロの視点で自分に合った求人案件を提案してもらえるので転職活動の幅が広がるだろう、とのことでした。
これに従い、この2件の求人を両方扱っているエージェントを探したところ、エリートネットワークのみがヒットしました。HPに書いてある「会社選びは社風選び」、「全ての企業に足を運ぶ」、「転職希望者とは必ず対面する」、という主義主張には賛同しましたので、思い切って登録してみました。
ちなみに、登録してから分かったことですが、エリートネットワークでは求人紹介だけでなく、転職希望者の経験をベースに、各企業に対して新たなポジションを用意してもらえないか提案することも行っていたため、1人で転職活動するよりも更に有利でした。
●自身がこだわったこと、逆にこだわりを捨てたこと
最もこだわったのは、転職を決断するきっかけとなった労働時間でした。これについては、転職カウンセラーの小中出さん経由で休日出勤の頻度や平均残業時間の情報を得ることができました。
次にこだわったのは社風でした。前職やそれ以前の職では、上司と私の2人体制だったため、職場の雰囲気は上司の思想信条に強く影響を受けました。上司によっては部下や学生に自分の言説や生活パターン(睡眠時間など)を押し付ける方もいらっしゃったので、そのような方が上司であった時は非常にストレスフルでした。
ですので、新しい職場には、自由に発言できたり、色々な個性を認め合ったりできる社風を求めていました。時々、小中出さんにご提案頂いた求人内容に不安がある時は、「この会社の中で、私は笑顔で働けそうでしょうか?」と聞くこともありました。この質問は、転職カウンセラーが法人営業も兼務していて、実際に企業に足を運んでいるエリートネットワークだったからこそできる質問でした。
業種・職種は、最初は前職(気候分野、研究職)に近いものを探していましたが、エリートネットワークに登録した後はこだわらなくなりました。「35歳、民間企業未経験」の私が業種・職種にこだわっていたらどこにも行けない、と思ったからです。
また、素人が下手に選り好みしても良いことはないと考え、プロのカウンセラーに全てお任せし、ご提案頂いた求人はできるだけ全部応募するスタンスを取りました。これはJ.D.クランボルツ他著『その幸運は偶然ではないんです!』などで紹介されている「プランドハプンスタンス」の影響を受けていると思います。
食わず嫌いをせず、オープンな心を保ち、初めて聞く業種をご提案頂いても「とりあえず面接を受けてみよう」「合わないと分かったらその時点で断れば良い」と、柔軟かつ前向きな気持ちで応募することにしました。
もうひとつ、こだわりを捨てたのは、勤務地でした。京都在住でしたので、最初は引っ越しの必要がない関西での就職を希望していましたが、自分の能力を活かせそうな職場は首都圏にしか多くないようでした。これにより、後に述べますが、共働きの妻との調整が必要になりました。
●家庭との調整も転職活動の一部
転職活動は、自身のキャリアプランだけでなく、家族のライフプランのチューニングでもあることを強く意識することになりました。
私の夫婦は共働きでしたので、私が東京で就職するとなると、生活に影響が出てきます。話し合った結果、妻が今の仕事を辞めて一緒に引っ越し、東京で再就職することを承諾してくれました。
そのため、一時的とはいえ妻が専業主婦になることを考慮し、給料には多少こだわりました。具体的には、面接で「給与はいくら欲しいか」と聞かれた場合、「現在の年収は○○万円ですが、共働きの妻が一旦仕事を辞めなくてはいけないので、その分の上乗せをご考慮願います」と返答するようにしました。
面接でも、家族に関する質問がよく出ました。引っ越しは可能であるか、という基本的な質問のほかに、「奥さんは、東京への転勤についてどのようにおっしゃっていましたか?」「弊社について、奥さんはどのような感想をお持ちでしたか?」という、家庭内で十分な話し合いを行ったかどうかを再々確認するような質問をよく受けました。面接官の立場に立ってみると、せっかく内定を出した応募者が、家族の同意が得られなかったために内定辞退することを避けたかったのでしょう。
一般論として、私のように引っ越しが必要なケースでなくても、出勤時間や帰宅時間が大きく変わるような場合は、家事の分担や子供の送り迎えなどについて、事前に家族と話し合っておくと良いと思います。面接での自信にもつながります。
●面接の事前準備
小中出さんのご提案により「よく聞かれることと、その回答」のリストを作りました。小中出さんに添削頂いた後、この「台本」の音読を繰り返すことで頭と口になじませるようにしました。このリストは、面接を受ける度に加筆修正を行いました。
同時並行して、業界研究を進めました。小中出さんからは電力業界を中心にご提案を頂いていました。小中出さんや面接官による各企業の業務の説明や、業界研究本などから、電力業界は電力自由化に伴い、大きな変革の最中であるということを知りました。
先述のように、私は、既に確立されたものを相手にするよりは、混沌としたものから形を作っていくことに、やりがいを感じる性格でしたので、この業界に興味を抱きました。また、小中出さんの見立てにより、私はモデリングやビッグデータ解析の方面で貢献できそうでしたので、その内容を「台本」にも取り入れました。
上記とは別に、この業界において自分がどのような仕事をするだろうか、どのような新しいサービスを提案できそうか、を空想してメモに書き留めたりすることもありました。このメモは面接には直接つながることはありませんでしたが、このような練習をしていたことで、面接中に仕事内容に関する変化球の質問が来ても、咄嗟に、かつ自己PRを交えて返答することができるようになりました。
●面接の場で意識したこと
とにかく、終始笑顔でいることを意識しました。カウンセリングを通じた小中出さんの分析によると、私には「笑顔」「真面目な顔」「すごく真面目な顔」の3種類があり、「すごく真面目な顔」は印象が悪い、とのことでした。面接中の表情の重要性は、小中出さんがエリートネットワークの自社採用の面接官を務められた経験からも裏打ちされており、応募者の表情及びそれの醸し出す雰囲気は、時には面接の当落さえ左右するとのことでした。
もうひとつ意識したのは、「返答をポジティブな内容で終える」ということでした。例えば「苦労した話を教えて下さい」と聞かれた場合、苦労話は正直に話すものの、そのエピソードから得た能力・教訓を話し、それを用いることで転職先にどのような貢献ができるか、というポジティブな内容まで話すようにしました。
●転職活動を通じて、気付いたこと・困ったこと
当初は、「台本」の暗記を強く意識していましたが、そのうち、あまり気にしなくなりました。中身をほとんど覚えてしまったせいもありますが、面接官の中には、「よくある質問」を敢えて外した、変化球を投げてくる方も多くいらっしゃったからです。変化球が来た時に咄嗟に返答できるかといった反射神経や、笑顔とポジティブさを保ったまま流れに乗る「ライブ感」も重要であることに気付きました。転職活動の終盤では、どのような変化球が投げられるのかを楽しみにしていた節さえありました。落ちたら落ちたで、自分とはご縁がなかったのだ、と開き直れるようにもなりました。
先述の通り、新卒での就職活動の経験はありませんでした。そのため、何をして良いのか全く分からない状態からのスタートでした。ネットや就活・転活本で一通り調べた後、それでも分からないことは「聞くは一時の恥」と割り切り、「初歩的なことを聞いて申し訳ありません」と思いながらも徹底的に小中出さんに質問しました。
もうひとつ、困った点としては、社風の情報をHPなどの公開情報以外からどう得るかが悩みでした。面接では企業に赴くものの、オフィスを見ることなく直接会議室などに通されるため、面接官の言葉や振る舞いくらいしか情報が得られません。そのため、逆質問を積極的に活用しました。自分がその企業で働いていることを想定して、「会議で意見が割れた場合、どのように結論を収束させることが多いですか?」というような質問をし、できるだけ社風を感じられる回答を引き出すように心掛けました。
●ポスドク特有の面接の傾向
民間経験がないこと、またアカデミックという比較的知られていない業界にいたことから、民間企業に馴染めるのか心配する質問を多く受けました。その中にはアカデミックに対する偏見と思われる面接官の質問もありました。
例えば「うちは女性の社員が多いが、男性だけの環境にいたあなたはきちんと対応できるのか?」というような質問がありました。私のいた分野には女性も多かったのですが、この時面接官に「それは間違っている」と反論するのではなく、「分野によっては男性が多いこともありますが、私のいた分野は女性も多く、女性の教授もいらっしゃいます。普段から女性研究者と議論を交わしていますので、問題なく対応できると思います」というように、やんわりと修正して回答するように心がけました。
また、小中出さんのアドバイスにより、民間経験のない自分には「スピード感(民間はアカデミックよりスピード重視)」「マネタイズの意識」がないことを弱点として認識し、入社後は上長との密なコミュニケーションにより積極的な意識変革を行っていくことを面接で述べるようにしました。また、意識変革については学生時代の大きな研究分野変更後の成功体験などを持ち出し、柔軟性があることをアピールしました。
一方で、博士という肩書が武器になる面もありました。例えば、海外展開を狙っている企業にとって、海外出張経験の豊富な博士は貴重な人材だったようです。海外で活躍する企業は博士を雇用、時には重役に登用していることが多く、博士がいない企業は軽く見られることがあるためです。実際に、内定を頂いた企業からは「単身で海外に視察に行けるか」などの質問を受けました。これは私には朝飯前のことでしたので、内定、給与の高評価につながったのではないかと思われます。
●担当カウンセラーの小中出さんに対して感じたこと
小中出さんは、求人のご紹介や面接の日程調整にとどまらず、初歩的な質問にも懇切丁寧に答えて下さり、大変ありがたかったです。お陰様で、転職活動中は疑問やモヤモヤを抱え込むことなく、転職活動に集中することができました。面接直後には電話やメールで丁寧にフォローを頂き、徐々に面接対応力が身に付いていく実感を得ることができました。また、まめに調子を伺って下さる電話には元気づけられました。登録から内定まで1ヶ月半、入社まで4ヶ月という短い期間ではありましたが、大変お世話になりました。
●次の職場に賭ける意気込み
転職先となる電力領域のベンチャー企業では、私の能力を予想以上に高く評価して頂けました。(これは小中出さんによる熱心な交渉の賜物でもあったと思います。)
この企業では新しいテーマに次々と挑戦することを奨励する雰囲気があり、また社員が社長にも意見を言えそうな風通しの良さが感じられます。これはまさに私の求めていた環境であり、自分の力量次第で多様なサービスを生み出せそうで、ワクワクしています。
初めての民間就職ということで、慣れるまで、それなりの苦労は覚悟していますが、できるだけ速やかに新しい職場に溶け込み、業績を上げられるように努力する所存です。そして、自分及び上司・同僚・部下が「ここが理想の職場である」と感じられるような雰囲気を作り、維持していければと思います。
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