博士・ポスドクの『転職体験記』
統計解析を研究した博士29歳。任期1年の特定助教から、財閥系総合重機メーカーのデータサイエンティストに転職成功
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- 前職
- 【旧帝国大学 大学院】
経済学研究科の特定助教(研究テーマ:統計解析、機械学習、計量経済学)
- 現職
- 【東証プライム上場 財閥系 総合重機メーカー】
AI・データサイエンティスト(機械学習、深層学習、大規模言語モデル)
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- 塩谷 研治 氏 / 29歳
- 私立高等学校 卒
私立大学 工学部 卒
旧帝国大学大学院 経済学研究科 修士課程 修了
旧帝国大学大学院 経済学研究科 博士後期課程 修了
博士(経済学)
日本学術振興会特別研究員(DC2)
① 研究者としての原点
私の研究の原点は、学部時代の卒業研究に遡ります。学部では工学部の情報系の学科に所属し、卒業研究では統計的機械学習に関するテーマに取り組みました。
学部時代に所属していた研究室は、数理ファイナンスをはじめとする統計科学全般を対象としており、研究テーマは各自の関心に委ねられていました。
初めての研究活動を通して、それまで「学問とは与えられた知識を学ぶもの」と考えていた自分の認識が、「自ら価値を創造するもの」へと大きく変わったことが、何より印象に残っています。空き時間があれば文献を調べ、思いついたアルゴリズムを自分でコーディングして試す――そんな日々を、心から楽しんでいたことを今でも鮮明に覚えています。振り返れば、これが研究の楽しさを初めて実感した原体験でした。
その後、多くの工学部の学生が修士課程へ進学する流れに従い、大学院への進学を決めました。進学先を検討する中で、自分の関心が「データから未知の構造を捉える」という統計手法にあることが次第に明確になっていきました。とりわけ、こうした手法が「ノンパラメトリック統計」と呼ばれる分野に属することを知り、より専門的に学びたいという思いが強まりました。
そこで、ノンパラメトリック統計を専門とし、日本でもトップクラスの研究者が在籍する他大学の経済学研究科への進学を決意しました。その教授が、博士課程における私の指導教官となります。
「なぜ経済の大学院に?」とよく尋ねられますが、私の目的は経済学の研究ではなく、関心のある統計分野を専門とする教授のもとで研究に取り組むことでした。日本では「統計学研究科」として独立した組織が少ないという制度的な事情もあり、経済系の大学院を選ぶことには実質的な意味がありました。
② 大学院(修士課程・博士課程)での研究と新卒時のキャリア選択
修士課程に進学してからは、せっかく経済学研究科に身を置くのだから、経済分野にも目を向けてみようと考え、日銀の金融政策に伴う長期国債金利の変化を数値シミュレーションで検証するテーマに取り組みました。また、当初は修士課程修了後の就職を視野に入れており、金融機関の数理専門職やデータサイエンティスト職を中心にインターンシップにも参加していました。
しかし実際に就職活動を進める中で、自分の関心である統計解析の理論的な研究を突き詰めるには、修士課程の期間では時間が足りないと実感するようになりました。特に、私が進学した経済系の大学院では、修士1年次は講義中心のカリキュラムであり、本格的に研究に取り組めるのは修士2年次からでした。これは、学部時代に所属していた工学部の研究室で、修士1年次から積極的に研究に取り組んでいた状況とは大きく異なります。
こうした環境の違いもあり、修士論文を無事に書き上げた後、より腰を据えて研究に向き合うために博士課程への進学を決意しました。
博士課程では、時系列データにおける因果推論をテーマに研究を進めるとともに、リサーチアシスタントとしてCovid-19パンデミックに関する研究プロジェクトにも携わりました。いずれも困難なテーマで、思うように進まない時期も長く、研究方針の転換を余儀なくされることもありました。その影響で博士課程を1年間延長することになりましたが、最終年度は学費全額免除にも支えられながら、なんとか博士論文を完成させることができました。
博士課程修了後は、自然な流れでアカデミアの道を選びました。統計理論や計量経済学を専攻する学生の多くがアカデミックに進む傾向があり、私自身も同様に、出身大学で特定助教として着任することになりました。
③ 学生時代・アカデミア(特定助教)の経験
今回の転職活動にあたっては、新卒として着任した4月より前から準備を進めていました。そのため、博士課程修了までに取り組んでいた業務についても、ここで簡単にご紹介します。
学生時代には、統計解析、数値計算、機械学習といった分野で、さまざまな技術やツールを用いたデータ分析および数値実験に取り組んできました。具体的には、R(Rcppによる処理の高速化を含む)やPython(NumPy、Pandas、dfplyによるデータ処理)を活用し、TensorFlowによる機械学習モデルの構築、AWS(S3やEC2による仮想サーバー構築、SageMakerによるモデル実行)による大規模データ処理も経験しました。データ前処理では、RのdplyrやPythonのdfplyを使ったパイプライン型のデータ操作にも取り組みました。
特定助教では、主に研究活動と教育活動に従事していました。研究面では、専門である統計解析や計量経済学に加え、関連する機械学習分野の学術論文を調査し、自ら構築した分析手法については、数学的な裏付けをもとに理論的な妥当性を検証するとともに、プログラミングを用いた数値実験により実証的な評価も行っていました。
また、教育面では、2つの講義を担当しました。1つは、新入生向けにアカデミック・スキルの育成を目的としたグループワーク中心の授業です。もう1つは学術論文を扱う授業で、計量経済学分野の論文を題材に、学生がグループで内容を読み解き、発表や議論を行う形式でした。
これらの実務経験が転職活動の選考過程にどの程度影響したかは定かではありませんが、博士課程修了までに培ったスキルや実務経験が、現在のキャリア形成に確実に活かされていると実感しています。
④ 転職を決意した背景
今回の転職を決意した背景には、新卒時に目指していたテニュアトラック講師(一定の任期の後に常勤職への登用が審査されるポジション)への就職に至らなかったことがあります。
私の専門分野では、多くの博士課程修了者がアカデミックに進むため、私も同様にその道を志して就職活動を行っていました。関西圏の某国立大学でのテニュアトラック講師の採用面接まで進みましたが、最終段階で教授会の承認を得られず、不採用となりました。幸いにも出身大学の特定助教(任期1年)のポジションに応募しており、そちらで採用されることとなりました。
しかし、この出来事をきっかけに「本当にこのままアカデミックの道を歩み続けるべきなのか」と自問するようになりました。特定助教は任期付きの立場であり、1年以内に次の職を見つけなければなりません。もちろん、データサイエンスはアカデミックの世界でも注目されている分野であり、希望を絞らなければ引き続きポジションが見つかる可能性はありました。
ただ、継続的な成果が強く求められる競争的な環境であり、待遇や勤務地において柔軟性に欠けること、将来的な生活の見通しが立てづらいことに対して、次第に不安を覚えるようになりました。加えて、博士課程在籍中から感じていたのが、生活の自由度の低さです。周囲の同年代が結婚や子育てといった人生の節目を迎える中、自分はそうした選択を先延ばしにしており、このままアカデミックに留まり続けることで、将来のライフプランにも影響が出るのではないかという懸念もありました。
⑤ 転職への前向きな動機
もっとも、こうした背景は一見後ろ向きに映るかもしれませんが、今回の決断には明確な前向きの動機もあります。とりわけ大きかったのは、これまで培ってきた統計解析のスキルや知見が、民間企業でこそ広く活かせるのではないかという気づきでした。
博士課程で関わっていた研究プロジェクトでは、外部からデータを購入して分析に活用する場面が多くありました。私自身が手続きを行ったわけではありませんが、指導教員が研究費の確保や各種申請など、煩雑で負担の大きい作業に時間と労力を費やしている様子を間近で見ていました。
一方、民間企業では実データが日常的に蓄積されており、それらを自由度高く分析に活用できる環境が整っています。加えて、単に分析を行うだけでなく、その結果をもとに意思決定やサービス改善といった実務のフェーズに直接関与できる点にも、大きな魅力を感じました。研究とは異なる形で社会課題の解決に貢献できることに、やりがいや意義を見出すようになったのです。また、キャリアを民間に転じるのであれば、年齢的にも早い段階で行動した方が選択肢が広がると考えたことも、今回の決断を後押ししました。
こうした思いから、アカデミックでの実務経験やスキルを土台に、より現実世界との接点が大きいフィールドで新たな挑戦をしたいと強く願い、キャリア転換を決意しました。そのため、博士論文の審査が完了して間もない2月末頃に、転職活動に動き出しました。4月からの新卒勤務が始まる前ではありましたが、将来を長い目で見据え、早めに動くことが重要だと考えたからです。3月初旬には(株)エリートネットワーク様との面談を開始し、本格的に民間企業への転職活動に取り組みました。
⑥ 転職で重視した点、手放したこだわり
今回の転職活動で重視したのは、「職種」と「勤務地」です。これまで統計解析の研究に取り組んできたこともあり、自分の専門と親和性の高いデータサイエンティスト職を中心に応募しました。
また、大学院進学を機に京都で暮らすようになって以来、この街がとても好きになり、勤務地が関西圏であることも譲れない条件の一つでした。せっかくアカデミアから民間企業への転身に挑戦する以上、待遇面についても一定の期待を込めて条件を設定していました。
一方で、手放したこだわりもあります。その一つが、「業界を絞らない」という判断でした。この点については次項でも詳しく述べますが、結果的に非常にプラスに働いたポイントでもあります。
業界に対する強いこだわりは持たず、あくまでデータサイエンスの専門性を活かせるかどうかを最優先に、柔軟に応募先を検討しました。この方針が、意外な業界の企業から評価をいただくことにつながり、思いがけない分野との出会いにも繋がりました。
また、本音を言えば、京都勤務やフルリモートが可能な職場が理想ではありましたが、データサイエンティスト職の多くは首都圏に集中しており、選択肢が限られていました。そのため、勤務地は京都に限定せず、京阪神エリア全体を視野に入れて活動を進めることにしました。
⑦ 転職活動の反省点と得られた学び
今回の転職活動を通じて最も痛感したのは、「実務経験の重み」です。これまでの研究活動を通じて、データ分析や機械学習の理論・手法を体系的に学んできたつもりでしたが、企業が求めているのは、あくまで「ビジネスの現場で再現可能な実績や経験」であり、研究経験だけでは通用しない場面も多くありました。
特に、企業のビジネスデータを扱うアナリスト職やコンサルティング会社、エンジニア寄りのデータサイエンティスト職では、実務経験がほぼ必須となっており、エントリーレベルのポジションですら、書類選考の段階で通過できないケースが目立ちました。一方で、AI・データサイエンス分野の研究開発ポジションでは、研究実績が高く評価される場面が多く、自身の経験がどのようなポジションで活かせるのかを実感する機会にもなりました。
意外だったのは、自分の専門とは距離があると感じていた日系の総合重機メーカーで、非常に高い評価をいただけたことです。品質管理や工程最適化といった分野では、統計解析の知見がそのまま実務に活かされており、自分のスキルが思わぬ形で企業ニーズと一致することを実感しました。また、面接に際して技報や関連分野の最新論文を読み込み、簡単なレビューを準備したことが自信につながり、実際の面接でも評価されたポイントであったと感じています。
反省点としては、もっと早い段階から面接の経験を多く積んでおくべきだったと強く思います。今回はエリートネットワーク様に加えて、他の転職エージェント経由でも活動を進めましたが、初期の面接では経験不足からくる不安や表現の弱さもあり、7〜8回目の面接でようやく自分の言葉で想いを伝えられるようになりました。データサイエンティスト職に応募を絞っていたこともあり、母集団が限られていた面もありますが、職種の幅を少し広げてでも、早めに面接慣れしておくことの大切さを学びました。
最後に強く実感したのは、「研究で培った知識やスキルを、いかにビジネスの現場で応用できるか」を、自分の言葉で、相手に伝わるように説明する力の重要性です。企業ごとに評価の軸は大きく異なり、専門性そのものよりも、その専門性をどう事業課題に結びつけて考えられるかが問われる場面が多くありました。
今回の転職活動を通じて、自分のキャリアや専門性を客観的に見つめ直し、その価値を適切に伝える方法を学べたことは、今後のキャリアにおいても大きな財産になったと感じています。
⑧ エリートネットワーク様を利用して感じたメリット
今回の転職活動でエリートネットワーク様を利用して感じた最大のメリットは、圧倒的な手厚いサポートと、求職者に真摯に向き合う姿勢です。
私自身、勤務地や職種など、複数の希望条件をお伝えしていたため、当初は「この条件では紹介できる求人案件が限られるのではないか」と不安を抱えていました。しかし、転職カウンセラーの久井様はその一つ一つを丁寧に汲み取ってくださり、「こんなにも該当する求人案件があるのか」と驚くほど、多くの魅力的な企業をご紹介いただきました。ご提案いただいたのは、誰もが名前を知るような優良企業ばかりで、当初はあまり知名度にこだわっていなかった私も、「このような企業で働ける可能性があるのか」と強く背中を押され、自然と意欲が高まっていきました。
求人案件紹介における視点も非常に的確で、単に「通過しやすいか」ではなく、「その人にとって中長期的に価値あるキャリアか」という軸でご提案いただけたことに、強い信頼を抱きました。実際、並行して利用していた他のアカデミック人材向けの転職サービスでは、書類通過の可能性を重視するあまり、アカデミックよりも条件面で見劣りする企業や、将来像を描きにくい求人案件の紹介が多く、選択肢の幅に物足りなさを感じていたのが正直なところです。
さらに、面接対策におけるサポートも群を抜いていました。志望動機や職務経歴書のブラッシュアップに始まり、面接後のフィードバック、企業とのやり取りまで、きめ細かくご対応いただきました。実際の活動では、久井様と10回近くの面談を重ね、応募企業の選定や活動方針の擦り合わせを行いました。加えて、6〜7回にわたる模擬面接では、想定質問や受け答えを徹底的に磨くことができ、本番でも落ち着いて臨むことができました。
書類選考がなかなか通らず気持ちが沈みがちだった時期にも、的確なアドバイスと温かい励ましのお言葉をいただき、精神面でも大きく支えていただきました。このような量・質ともに他にはない支援体制は、エリートネットワーク様ならではの強みだと感謝しています。
また、内定後のフォロー体制も非常に充実しており、入社に至るまで安心して進めることができました。実際、当初予定していた入社時期を、前職の引き継ぎの都合で1ヶ月ほど遅らせる必要が生じた際にも、久井様が迅速かつ丁寧に内定先と調整してくださり、何の不安を感じることもなくスムーズに対応いただけました。こうした細やかなご対応一つ一つからも、転職希望者と企業の双方に対する深い理解と信頼関係の上に成り立っているご支援であることを実感しました。
結果として、自分でも納得のいく形で転職活動を終えることができ、エリートネットワーク様にお願いして本当に良かったと心から感じています。一人では決して出会えなかったであろう企業との接点、安心して選考に臨める環境、そして親身で確かなサポートを提供してくださる転職エージェントとして、自信を持っておすすめしたいです。
⑨ これから転職活動を始める博士の方へ
転職活動を始める方の中には、必ずしも希望して始めたわけではなく、必要に迫られて踏み出す方も多いのではないでしょうか。私もまさにその一人です。アカデミックの道を志して就職活動をしていたものの、望んだポジションには就けず、やむを得ずキャリアの方向転換を考え始めました。
しかし、視点を少し広げてみると、これまでとは異なる環境で自分の可能性が開けることに気づくことがあります。私が今回転職することになった業界も、当初はまったく想定していなかった分野でした。それでも調べていくうちに、自身のスキルや経験が求められていることを知り、大きなやりがいを感じるようになりました。実際、今回の転職先は、社会インフラや防衛産業などに関わる事業を展開しており、社会貢献性の高さに非常に魅力を感じています。研究者とは異なるフィールドで、別のかたちの誇りを持って仕事に向き合えることに期待しています。
転職活動は確かに大変ですが、少し勇気を出して一歩を踏み出すことで、自分がより輝ける場所に出会えるかもしれません。今、不安を感じている方にも、そうした前向きな可能性があることをぜひ伝えたいと思います。
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